プロジェクトを知る

HOMEプロジェクトを知る
對馬 達朗

東京のシンボルとなるランドマーク
の安全・安心を確保し、未来へつなぐ

PROLOGUE

2011年の東日本大震災を機に、震災時の避難場所となる体育館や大型商業施設、公共施設には耐震天井を導入するという法令が施行された。
桐井製作所では、すでに10年以上前から「耐震」の部材や工法に取り組み、研究を進めており、その技術力・ノウハウは注目を集めている。
実際に施工する際、大手ゼネコンや設計事務所から技術的サポートを依頼されることも珍しくない。
対応するのは、開発部の中でも技術的サポートを専門にする「イノベーショングループ」となる。
都内の大型商業施設に関わった對馬のプロジェクトストーリーを紹介しよう。

二子玉ライズの耐震天井プロジェクト

2015年、二子玉川駅前に展開する二子玉川ライズのグランドオープンにより、33年にわたる大規模なまちづくりプロジェクトが完成した。
実は、この工事の終わりに差し掛かる頃、プロジェクトは大きな課題に直面していた。大規模な空間には耐震天井を設置するということが法改正で決まる前に設計されていたことから、すぐさま性能基準にあわせた仕様に変更しなくてはならなかったのだ。
対象となるのは外周部の軒店部分と、映画館の中の天井部分。
工期が延びてはオープンに間に合わない、予算も決まっている。そもそも性能基準にあうものにするには、どのようにすればいいのか。ゼネコンも設計事務所も知見を持っていないことから、耐震天井のメーカーとしてノウハウを持つ桐井製作所に協力依頼がきたのだ。

前例のない取り組みへの挑戦

耐震天井を展開するメーカーとして、これまで多くの実績を重ねてきた桐井製作所。しかしながら、法改定直後の施工は、これがはじめての経験となる。桐井にとっても手探りで取り掛かる案件となった。
對馬は、実験データや計算など技術的裏付けをもとに、施工方法、資材の変更、工期、費用をまとめ、ゼネコンや設計事務所に説明した。
「どうしてこんなに工期がかかるんだ」「なぜ費用が3倍もかかるのか」「計画通りの施工ではなぜダメなんだ」…批判的な声も多く上がる中、對馬は「性能として基準を満たすものを造るのであれば、これしかない。」と意志を貫き、主張を変えることはなかった。

妥協はしない!プライドを賭けた意地

最終的にGOサインが出るまで、工事はいったんストップとなった。早く決断を出さなくては、どんどん工期が延び、リスクも増えていく。ますますヒートアップしていく関係者と、メーカーとしての誇りで対峙する對馬。時には言い合いになることもあったという。「工事店の取引先となるゼネコンや設計事務所を怒らせて敵にまわしてしまっては、工事店に迷惑がかかってしまう。勢いに飲まれて折れてしまいたいという気持ちもありましたが、資材を購入いただいたお客様である工事店を守る立場としても、性能基準を落とす施工はさせたくなかったんです」と、語るのは、對馬が前職、まさに工事店で現場管理をしていた経験にある。状況は違えども、発注側の意向と現場に相違があり窮地に陥って困ることはよくあること。そんな時、メーカーで守ってくれる人がいたら・・・と何度も思ったことがあったのだそうだ。今、まさに自分がその立場を担うことにも、意義を感じていた。
最終的には第三者機関に判断を委ねながら、無事、施工を完成させることができた。品質と工期,コスト。プロジェクト推進に潜む様々なリスクにどう対応していくのか。ノウハウにするための礎となった難しい案件だった。

紀尾井町プロジェクトの課題

現在,東京都心部では,多数の大型再開発が進んでいる。 “赤プリ”として親しまれた旧グランドプリンスホテル赤坂跡地約3万m2にオフィス・ホテル棟と住宅棟などが入った「東京ガーデンテラス紀尾井町」も、稀に見る大規模プロジェクトだった。一般的な大型プロジェクトでも50人の職人が関わるといえば相当なものだが、ここでは数百人規模の職人が関わる規模。
「東京ガーデンテラス紀尾井町」は法改正の後に計画されたこともあり、設計段階から耐震天井が組み込まれていたが、現場に行ってみると設計図と違い、完成図通りに施工することができない。ふたを開けると違っていたというのは、よくあること。一般的な工事であれば、完成図に近づけるために常識の範疇で現場が臨機応変に対応していくものだが、耐震天井は設計図から逸脱すると強度などの性能に大きな影響を与えてしまう。どのように対応すればいいのか…混乱する現場に、對馬が技術サポートとして入ることとなった。

「あるべき姿」を貫くことが使命

「完成図通りに施工しようとすれば、ダクトが邪魔して吊り天井を施工できない。何かアイデアはないか」

そんな悲鳴があちこちのフロアで叫ばれていた。對馬は安全を優先してデザインを変更するか、性能を変更するか、いくつもの案を用意して設計事務所に判断を委ねた。
想いがこめられたデザインだ。そう簡単に変更できないことは分かっている。デザインを取るか、安全をとるかと選択肢を出しつつも、規定から逸れれば、どれだけ安全が担保できないものなのか。技術的なデータをもとに説得し、理解してもらうのも對馬の役目だった。
もぐら叩きのような状態で、あちらこちらの現場から検討箇所が現れ、そのたびに仕様を計算し、関わるゼネコンや設計士に判断を仰ぐ。「どんなに難しくても、それが安全を守る工法なのであれば、何があっても貫かなくては。『あるべき姿』は譲れませんからね。」對馬の強い信念は、現場に浸透していき、誰一人として、「デザインを守るために、これぐらいは仕方ないだろう」とは言わなかった。

震災で建物が壊れて被害にあうなんてことは、二度と起こしたくない。これは、建築に関わるすべての人が寄せる共通の想い。だからこそ耐震天井のリーディングカンパニーとして、「安全・安心の空間」をつくる使命を啓蒙するとともに、あらん限りの知見を投入し、工事を成功に導いていったプロジェクト。
二子玉ライズも、紀尾井町も、多くの人が安心して集い、楽しむ姿に、当社が関わる社会的意義を改めて実感している。