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プロジェクト 01

大手デベロッパー向け天井部材開発

大規模施設内部の
安全性を向上。
その挑戦を
新製品開発につなげる

Y.K.
開発部 技術開発グループ
2020年入社

地震大国日本において建物の耐震化が進む中、注目が集まっているのが天井や壁、床などの内装部による空間安全性の確保である。耐震天井において業界トップのシェアを誇る桐井製作所。当社の豊富な知見やブランド力が信頼され、デベロッパーや設計会社などから相談を寄せられることも多い。
ここでは、大手デベロッパーの依頼から始まったあるプロジェクト、そしてそこでの成果が一つの製品の開発に結びついたケースを紹介する。

大手デベロッパーの依頼に
入社4年目の技術職が挑む
スタートは2023年7月。商業部やオフィス部などからなる大規模複合施設を建設している大手デベロッパーA社から、当社 東京第一営業所にある依頼が入った。建設中施設のオフィス部について、天井に照明や火災報知器といった設備を取り付ける際の内規を確立したい、というものだった。内規とは、施工内容やプロセスについてのルールや手順を指す。使用する建築資材の品質・安全などの基準も含まれ、それを満たした部材や工法の開発が必要となる可能性もある。
A社は東京都心部を中心に複数の大規模複合施設を有しており、地震などの災害発生時には帰宅困難者の受け入れも求められる立場である。近年の災害では天井や付帯設備の崩落事故も多発しており、災害後も人が滞在できるよう、建物だけでなく内部の安全性にも配慮する必要があった。従来、内装施工の内規は各工事店任せになっていたが、今回の施設建設を機にA社として統一した内規を定めたい、というニーズがあることが伺えた。
A社との窓口を務める東京第一営業所は、社内外からの技術的な問合せに対応する開発部 技術開発グループに相談。本プロジェクトを技術面から推進する担当者として白羽の矢を立てられたのが、当時入社4年目のY.K.だった。
東京第一営業所では、桐井製作所の製品である金具を活用することで、内装の安全を確保する内規を確立しA社の依頼に応えられるのでは、とあたりをつけていた。該当箇所は構造体から天井材を吊るす「システム天井」の形式になっている。吊るす際に使用されるバー材にこの金具を使って補強材を設置し、そこに照明などの設備を取り付けることでその重量をバー材に負担させる、というプランである。Y.K.は該当製品の強度や耐久性を踏まえ、この製品をベースに本プロジェクト用にカスタマイズした金具をつくることで対応できると考えた。早速、Y.K.の製品開発が始まった。

このプロジェクトのための
部材を開発
作図して試作品の制作を金属加工会社に発注。仕上がってくるまでの間に試験計画を立案する。どのようなデータを揃えれば、A社に対して桐井製作所ならではの信頼性の高い提案を行えるか。Y.K.はグループの上司やA社を担当する営業職社員と綿密に話し合いながら、試験の内容や方法を決定していった。このプロジェクトに参加するまで、彼は製品試験を主な業務としていた。その中で体得した知識やスキルがここで大きく役立ったとY.K.は当時を振り返る。
試作品の試験もY.K.が担当し、当社の葛西試験場で実施。施工現場では640mmや600mmの長さのバー材を連結して使用されるが試験で使用するものはそれより短いため、実際の使用状況を可能な限り再現できるよう配慮した、とY.K.は語る。桐井製作所では製品試験の際、製品ごとのバラつきを考慮して1製品につき3体の試験を行う。今回は下方向のほか横方向からも力をかける試験を行ったため、合計6回の実施となった。この試験の結果を踏まえ、仕様や形状、コストを確定。特にY.K.がこだわったのは荷重で、試験で求められた耐力をもとに算出するとバー材にたわみが生じる可能性があり、それを考慮して許容荷重を設定した。
さらに関連工業会の基準や施工現場の状況などを調査し、設置条件や強度計算方法などをまとめてA社に提出する資料をY.K.は作成。「現場対応品」と呼ばれるカスタマイズ金具とともに、2023年9月、東京第一営業所はA社に納品を行った。
A社はこれをもとに天井に各種設備を取り付ける際の内規を確定。A社のような大手デベロッパーがこうしたルールを統一することで、施工を請け負う内装工事店等もこれに沿って他物件の施工を行い、当社発のルールが普及して多くの建物で内部の安全性が高まる可能性がある。このプロジェクトにはそうした意義もあった。

プロジェクトの成果が
当社製品として結実
こうしてプロジェクトは無事クローズしたかに思われたが、納入から約半年を経て、A社現場対応品を当社の製品として量産し、販売する話が出た。「この金具を使用することで、バー材にかかる重量を明確に算出できる。また、設備を取り付ける際に必要な補強材を軽量化しており、構造体自体にかかる重量や施工時の負担を軽減できる。こうした点が評価され製品化につながったと聞いています」想定していなかった動きを、Y.K.はそのように整理する。
現場対応品はあくまでその現場での使用を想定したものである。Y.K.は改めて設計に取り組み、製品としてより幅広い現場で活用できるよう、2種類の高さのものを用意。試作品を使用して再度試験を行い、仕様を固めていった。そしてA社プロジェクトでもこだわった荷重について、Y.K.は許容荷重をさらに抑えた「推奨荷重」を設定することを提案。バー材のたわみをより少なくし、安全性と仕上がりの美しさを向上させるためのアイディアだった。
2024年12月、Y.K.が開発を手掛けた「グリッド用Mバー押さえ金具」の販売がスタート。売上げは好調で、コストパフォーマンスの良さや施工のスムーズさが受け入れられているのだろう、とその要因を彼は分析する。「A社のプロジェクトに参加するまで、デベロッパーや内装工事店など社外の方と接する経験がほとんどありませんでした。今回、お客様や現場のニーズを出発点に製品開発を行い、“需要に応える”ことの大切さを、改めて実感しました。“建物内部の安全性を高めるためにはこういったものが必要”と開発者目線で立案することもままあるのですが、ニーズにフィットしていなければ頭でっかちな発想になってしまい、本当の意味でお客様に役立てる製品開発はできない。今後は当社の営業所、そしてその先のデベロッパーや内装工事店の方々とやり取りする機会を積極的に持ち、現場で評価される、さらには建物内部の安全性向上に貢献するものづくりを行っていきたいです」

私の挑戦

自社製品の開発において、「推奨荷重」を設定することが大きな挑戦でした。従来は許容荷重のみとすることが多かったのですが、それをさらに抑えた推奨荷重を設定することで、安全性向上とともに設計者がイメージするデザイン性を守ることができると考えました。